後藤研究室 |
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<電磁力加振現象を応用した内部欠陥の検査手法の検討>球状黒鉛鋳鉄材は引張強度に優れ、錆などの腐食に強い鋳鉄材としてクランクシャフトやタービンをはじめとする機械部品に使われています。しかし、一般的な鋳鉄材と比較して製造過程において引け巣と呼ばれる空洞が内部に発生しやすいことでも知られています。引け巣が発生すると、製品の強度が著しく低下してしまいます。完成した製品の品質を保証するためには、非破壊検査を実施する必要があります。一般的な非破壊検査の方法としては、X線検査や超音波検査、渦電流探傷法が使われています。しかし、この3種類の検査手法では球状黒鉛鋳鉄材内部に発生した引け巣を検出する際に懸念される事項が存在します。x線検査法は検査設備が高額であることや、製品の厚さが30mmを超えると計測が困難になる懸念があります。超音波探傷法は検査表面を研磨したり、水やグリセリンなどの接触触媒を必要とするなど検査の前後に手間がかかります。また、引け巣の形状は超音波を乱反射させてしまい、検査が困難であるという懸念も存在します。渦電流探傷法は一般的にアルミなどの非磁性体の検査に使われる手法です。この検査法を強磁性体である球状黒鉛鋳鉄材内部に使用した場合、表皮効果の影響を受けて表層の欠陥しか検出できないという懸念点があります。実際の製造工場では、上述した3つの検査手法の課題を解決し、鋳鉄内部の引け巣を簡単かつ迅速に検査する方法が求められています。そのため、本研究では電磁力加振による差動信号を測定することにより、鋳鉄内部の引け巣を評価する検査方法を提案します。ここでは、はじめに有限要素法による3次元電磁界解析と、変位解析を行い現象の解明を行います。続いて、実際に引け巣を有した試験材を使用して検証実験を行います。〈研究担当:丹羽、藤本(和)〉 電磁力加振の原理
解析の手順ここでは試験対象を球状黒鉛鋳鉄材(FCD600)とし、引け巣の有無が鋳鉄材内の変位に及ぼす影響を3次元有限要素法の電磁界解析と変位解析によって評価します。本手法は永久磁石からの静磁界と交流励磁コイルによる渦電流で鋳鉄材の内部にローレンツ力を発生させます。そこでまずはじめに、鋳鉄材の磁気特性の非線形性を考慮した直流磁界非線形解析で永久磁石から印加される鋳鉄内の直流磁束密度を解析します。次に同じく鋳鉄材の磁気特性の非線形特性を考慮した交流磁界解析で交流励磁コイルによって生じる鋳鉄内の渦電流を解析し、直流の磁束密度と渦電流からローレンツ力を計算します。最後に、交流励磁周波数と共に変化するローレンツ力を鋳鉄への印加振動源として与え、その時に得られる鋳鉄内の変位を3次元有限要素法の変位解析で解析し、振動検出素子から得られる信号を解析的に評価します。解析手順のフローチャートを示します。 解析モデルの概要 本解析で使用するモデルの1/2領域を示しています。この加振器は穴の開いた角柱状の永久磁石の外側に交流励磁コイルが巻かれた構造をしています。永久磁石の寸法は、x方向幅20mm、y方向幅20mm、z方向高さ20mmで、残留磁束密度は0.5Tのネオジウム磁石をモデルとしています。また、2つの穴のサイズはx方向幅3mm、y方向幅3mm、z方向高さ20mmの直方体空気領域としています。交流励磁コイルは270ターンとし、500Hz、2.0Aの正弦波交流電流を流します。球状黒鉛鋳鉄材は後述する検証実験に使用する鋳鉄材と同じサイズとし、寸法は190×30×30mmです。また引け巣領域は20×10×10mmの直方体とし、電磁気的には真空領域と仮定しています。 |